研究内容RESEARCHES

広島大学大学院先進理工系科学研究科 スマートイノベーションプログラム
スマートロボティクス研究室 教授
石井 抱 Idaku ISHII
>> 研究テーマ
1秒間に1000コマ以上の実時間画像処理を実現する高速ビジョン技術を始めとして、人間の感覚能力を遥かに上回る実時間センシング技術の確立を目指した情報システム/デバイスの研究開発を行うとともに、高速化・集積化を念頭においたアルゴリズムの研究、さらには人間には感じとることが難しい振動ダイナミクス等の情報を積極的利用した新たなセンシング技術の実現を目指します。

実験用マウスの実時間擦過運動定量化

実験用マウスの擦過運動は、秒間に10回以上といった後足の高速な繰り返し動作であり、痒みと密接な関連がある疾患モデル行動として知られる。このような擦過運動の行動定量化は、例えばアトピー性皮膚炎に対する行動指標を客観的に与えるものとして、新薬開発など多岐にわたる場面において強く求められる。そこで本研究では、擦過運動が持つ高周波数運動成分を高速ビジョンによりリアルタイム抽出することにより、実験用マウスにマーカーをつけることなく、長時間にわたる擦過運動を定量化するシステムの開発を行った。system

本研究では、実験用マウスのシルエット画像におけるフレーム間の画像変化を計算し、擦過運動に伴う高速かつ繰り返し起こる高周波数成分をリアルタイム抽出することにより、擦過運動を抽出することとした。アルゴリズムの主な流れとしては、(1) シルエット画像取得のための2値化、(2) フレーム間差分画像計算、(3) 差分画像の総和計算(値が変わった画素数に相当)、(4) (3)で計算された差分特徴量に対する高周波数成分抽出 を行うものとした。このうち(1)〜(3)の処理については、高速な擦過運動に対応した形で、高速ビジョン上にハードウェア実装することとした。

構築した擦過運動定量化システムは、右図のように、フレームレート240fpsで640×400画素画像に対するフレーム間差分特徴をリアルタイム計算するネットワーク高速ビジョンシステムINCS1020により、近赤外光面照明を背景としたマウスケージ内のマウスの行動を観測するものとした。

構築した擦過運動定量化システムを用いて、典型的な実験用マウスの一種であるICRマウスを用いた動作検証実験を行った。なお痒みを発生させるために、ICRマウスに100mgのcompound48/80が頭部に注射されている。 これらの動作検証実験は、ICRマウス一匹あたり20分間にわたって行われた。 擦過運動時における1秒間のフレーム間差分特徴(上段)及び擦過運動検出結果(下段)を図に示す。
MPG動画(0.3MB) 再生 MPG動画(0.3MB) 再生
擦過運動
graph

本研究の知見をもとに、(株)ノベルテックが擦過運動定量化システムSCLABA-Realを既に実用化・販売されている。